札幌テレビ放送(STV)は、Inter BEE 2026のFYCSブースにて、自社で開発した「番組オンライン納品システム」をデモ展示します。既存の放送システムに手を加えることなく、業務自動化の技術を活用して連携を実現し、ディスクを使わない納品と番組の取り違え防止を低コストで両立させたシステムです。クラウド上に構築したデモ環境を、ブースのPCで実際に操作して体験していただけます。

開発のきっかけ
長らくマスター納品のデファクトスタンダードであったXDCAMは、プロフェッショナルディスクと録画再生機器の生産終了が決まり、物理メディアに依存した納品ワークフローは将来的に維持することが難しくなりました。
従来のディスク納品は、メディアの作成、紙のテクニカルシートの添付、物理的な搬送と多くの手間がかかり、手作業による転記はファイリングミスや放送事故のリスクを常に抱えていました。解決策がオンライン納品であることは明らかでしたが、既存の営放システムや番組バンクと連携するには大規模な改修が必要となり、予算やリソースが限られるローカル局にとっては、その改修コストが大きな壁となっていました。
開発のコンセプト「ちょうどいい」
- 対象を自社制作番組に絞る:系列番販など安定稼働している領域や、ディスクで完成して搬入される素材は従来どおりの運用とし、課題のある部分だけをピンポイントで解決しました。
- 既存システムは改修しない:営放システム・番組バンクにAPIの新設などの改修を一切行わず、外側から連携させることで改修費用をゼロに抑えました。
- 技術局員による完全内製:放送運行と現場の運用を熟知する局員が自ら設計・開発し、構築コストを抑えるとともに、現場の要望をすぐにシステムへ反映できる体制としました。
また、制作部門だけが楽になり、準備部門やマスター部門に作業のしわ寄せがいく「部分最適」ではなく、制作・準備・送出のすべての部門の負担が減る「全体最適」を目指しました。

システム構成
利用者が操作する「納品Webアプリケーション」と既存システムとの間に、「営放自動連携端末」と「転送端末」を配置した、Web × RPAのハイブリッド構成です。
- 納品Webアプリケーション:制作・準備部門・テレビマスターなど、アカウントの所属グループに応じて表示内容や機能が切り替わります。営放に登録された番組ごとに「オンエア番組」が作られ、納品作業の“箱”として機能します。
- 営放自動連携端末:RPAが人の操作を模擬して営放システムを操作し、番組情報の取り込みと確定尺の登録を自動で行います。
- 転送端末:納品確定したMXFファイルの番組バンクへの転送、プレビュー用低レゾ映像の生成を自動で行います。

納品からオンエアまでの流れ
- 準備部門が営放システムに番組を登録(従来どおりの作業)
- RPAが営放の番組一覧をエクスポートし、Webアプリに「オンエア番組」として自動登録
- 制作がWebアプリ上で放送日・確定尺などのメタ情報を入力
- RPAが確定尺を営放システムへ自動で登録
- 制作が完パケMXF(字幕番組は字幕ファイルも)をブラウザからアップロード
- 制作が「納品確定」すると準備部門へ通知され、MXFは番組バンクへ自動転送・自動ファイリング
- マスター・準備部門がWebアプリ上でプレビュー記録を管理
人が行うのはWeb画面への入力とアップロードだけで、基幹システムへの登録は自動で完了します。これにより、納品の工程から紙のテクニカルシートと物理メディアがなくなりました。
主な特徴
既存資産を活かすRPA連携
APIを新設せず、RPAが営放システムの画面を操作することで双方向の自動連携を実現しました。制作担当者がWebアプリに入力した確定尺がそのまま営放システムに登録されるため、準備部門での手入力と転記ミスをなくしています。

追加コストゼロの自動ファイリング
番組バンクにもともと備わっていた系列番販用の自動ファイリング機能を自社制作番組にも使えるようカスタマイズし、素材IDをキーとした自動ファイリングを実現しました。仕様上手動となる再ファイリング時には、番組タイトル名のダミーファイルを自動生成して目印とし、誤ファイリングを防いでいます。
運用を守る安全機構
必要な素材やデータが揃わなければ納品確定できない仕様とし、納品確定後はファイルの変更操作をロックします。ロックの解除はマスター権限に限定しており、「Webにアップロードされているファイル=番組バンクにファイリングされているファイル」という状態をシステムで担保しています。
オンラインならではの便利機能
- メタ情報入力・確定尺の自動計算:CM・提供ブロックの開始タイムコードと尺を入力するだけで、本編尺などを自動計算。ブロックの重なりなど矛盾する入力はガードします。
- テクニカルシートの自動生成:入力内容からテクニカルシートPDFと、民放連技術基準T034準拠の番組交換メタファイル(XML)を自動生成。定型項目はテンプレートとして再利用できます。
- 低レゾプレビュー:アップロードされたMXFを自動でH.264のMP4に変換。タイムコード焼き込み、セーフティエリアのオーバーレイ表示にも対応し、事務用PCのブラウザから映像を確認できます。
- 伝言板:制作・マスター・準備部門の間でチャット形式のやり取りができ、経緯が履歴に残るため担当者交代時の引き継ぎもスムーズです。
- バーコード表示:素材IDをバーコード表示し、番組バンクのバーコードリーダーで読み取ってファイリングデータを開けます。
- プレイリスト:放送日ごとのプレイリストで翌日分の3点チェックを効率化。過去日素材の削除も自動で行います。
- 死活監視:各端末のプログラムをアプリケーションサーバーで一括監視し、応答がない場合はシステム担当者へアラートメールを送ります。

コード改修なしでクラウドへ
社内ではオンプレミスで運用していますが、WebアプリにNext.jsを採用しているため、クラウド上ではサーバーレスファンクションとして動作し、実際に使った分だけの課金で運用できます。ストレージもS3互換のオブジェクトストレージを利用しており、オンプレミス・クラウドを同じソースコードのまま切り替えられます。今回展示するクラウド上のデモ環境も、社内の本番環境と同一のソースコードで動いています。

導入効果

2025年7月の本運用開始から2026年10月末までの1年4か月で、延べ約1,700番組の納品を処理しました。現在では自社制作番組のほぼすべての納品を担うシステムとして定着しています。
- 1番組あたりの納品関連作業が約28分 → 約8分(約71%削減)
内訳:書き出し・転送 13分→3分/テクニカルシート 10分→5分/営放への入力 5分→ゼロ - 1年4か月・約1,700番組で、作業時間をおよそ566時間削減
- 既存システムへの追加改修はゼロ
- 紙のテクニカルシートを廃止し、完全ペーパーレス化を実現
※作業時間はすべて30分番組と仮定した試算です。
本システムは、2026年日本民間放送連盟賞 技術部門 技術奨励賞を受賞しました。
ブースで体験できること
FYCSブースでは、クラウド上のデモ環境を使って、制作担当者の納品作業を一通り体験していただけます。
- MXFの納品:本編ファイルをブラウザからアップロード
- メタ情報の入力:タイトル・話数・ラウドネス値などを入力
- 尺情報の入力:本編とCMのタイムコードをQシートに入力
- PDFの自動生成:入力に合わせてテクニカルシートPDFがその場で生成
- チェックと再生:プレビューチェックの操作と低レゾ映像の再生

入力した内容がその場で画面とPDFに反映される様子を、ぜひ実際に操作してお確かめください。※デモで扱う番組・素材はすべてデモ用のサンプルです。
まとめ
番組オンライン納品システムは、既存システムに手を加えることなく、RPAなどの業務自動化技術と既存機能の活用によって連携を実現し、ディスクを使わない納品と番組の取り違え防止を低コストで両立させました。限られたリソースの中で、関わるすべての部門の負担を減らす“ちょうどいい”仕組みとして、ローカル局のDXのひとつのモデルになればと考えています。Inter BEE 2026のFYCSブースで、皆さまのお越しをお待ちしております。
